高熱隧道



黒部第三発電所建設における隧道(ずいどう=トンネル)工事の物語。物語、というほのぼのした表現は似合わないのかもしれません。凄まじく壮絶な戦いの記録です。

黒部というと観光地化されたクロヨンが有名ですが、この高熱隧道はそれ以前の第三発電所に関するもの。欅平から先、人間を含めた生きるものを一切寄せ付けない厳しい環境の黒部。常に滑落の危険が伴う歩道は資材搬入も命がけであり、人と資材の往来のための隧道工事が始まる。しかし、着手した隧道工事がこれほど過酷なものであるとは…。

登場人物や会社などは架空の名称で表現されているものもありますが、綿密な取材と情報収集に基づいて可能な限り史実に近く描かれており、ノンフィクション小説と呼んでも良いと思います。戦争を背景とした軍需により、法令をも無視して進められる工事。現場の指揮を執る技師と、命がけで作業にあたる人夫たち。それぞれの立場でのドラマがありそれら人間模様も楽しめますが、やはりちっぽけな人間たちに対して圧倒的脅威として存在する黒部の自然の凄さが際立ちます。


以前、家族で黒部トロッコに乗って欅平まで向かい、そこから祖母谷温泉まで歩いたことがありました。欅平は観光客で賑わう平和な場所でしたが、その奥には想像もできないくらいの険しい世界があり、かつてそこを掘り進んだ人たちがいたんですね。

黒部峡谷

2011-11-11



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The 9th trail. のあるじです。右往左往しています。