強力伝を始めとする新田次郎著の短編、全六。新田次郎氏ならではの緻密な描写で、いずれの編も傑作。それだけに、もっともっと書き込まれて短編の枠を越えたものを読みたいと願う。そんな贅沢な思いをつのらせてしまう一冊です。
それぞれの話の舞台は、ある山域であったり、小さな村落であったり、島であったり、穴の中であったりと、限定的な領域内での話が主として綴られています。だからと言って話のスケールが小さいかというとそうではなく、登場人物たちの心の中が広く深く書かれており、これがこの短編に共通した魅力のような気がします。
個人的には、『おとし穴』や『孤島』のような、極限的な環境での人間の負の面の描写を興味深く読みました。著者も気象観測のために極地や閉塞的な環境に身を置き、自身の経験を登場人物に投影しているんでしょうか。
強力伝で登場した風景指示盤の実物は白馬山頂に確かに現存し、モデルとなった小宮山正氏の娘さんは金時山の茶屋の看板娘だそうです。遠く離れた山と人同士が繋がっているとは。わたしはいずれの山も一度訪れただけですが、奇妙な繋がりを感じました。
リンク:白馬山荘HP
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